第8回越境する教師の会シンポジウム
講演 対話を通して組織を変える
永井恒男氏
(野村総合研究所)
対話で組織が変わることについて。会議において議論すると話がわれる。それは、みんな主張があって、それには根拠があるからである。みんなが最もらしい根拠で最もらしい主張をするので、意思決定がされない。それは、前提が違うからである。ここで話さなければいけないのは、これが前提でいいのかということ。また、よくある会議の主役は参加者である。本来、生産的な組織では主役はテーマである。テーマがあって客観的なデータを収集してさまざまな視点で話し合う。テーマを昇華して、想像的なアイデアや共感的な意思決定がされる。私の事業はIDELEAという。私たちの目指している経営・組織の作り方は、共鳴する組織である。たとえば、社長・リーダーがやりたいことがある。それを話して広げていく。話していく時に、いろいろな人の意見が集約されて昇華されていかなければならない。それがお客さまにも伝わるとものが売れる。最終的には社会に共鳴する枠が広がっていく。そのために必要なものが議論ではなく対話である。
では、組織を変える対話は、どうなるのか。通常、会話・議論は当たり障りのないことの一層目です。たとえば、百貨店の経営者の場合、このままではなく百貨店をもっとよくしたいという。そうすると、みんな何かを変えなければという。しかし、明日から何をするかと聞くと、それはもっと検討してからと決まっていかない。全く危機感がない。当たり障りにない話からは何も生まれない。では、会議を変えようとして、明日から何をするのか、百貨店を変えるってどういうことなのなどの話をする。そうすると、今度は評論家分析システムになる。俺が正しい、みんなが間違っているみたいなことになる。普通対話を始めると、当たり障りのない話から本当にどうするのって話になる。そのなると、「いろいろ頑張っているが仕方がない」みたいなあきらめがくる。そのあと、そういっていても仕方がないから現場の人を本当にどうしたらよいのかと話すと、最終的にはおそれがでてくる。要するに、みんな変えたくない。新しいことをやるのはみんなこわい。評論家システムやあきらめは人にとって都合がよい。しかし、こわいけれどどうするのかということをみんなで話せるようにする。方法としては、コツがあります。人に話すのがこわいから、いきなり聞いても話せない。はじめは、評論家分析システムでやる。みんなが何を考えているか分からない状態でテーブルを囲んでいるから話が進まない。ひとつめはポストイットを利用して、「この会社で気になっていること」を会社の役員50人ぐらいに書いてもらう。「会社の商品がどうしてよくならないのか」「うちの店に買いに来てくれないのか」などが並ぶ。こうすると、毎週会議しているのに、何も話が進んでいないことがわかる。次が、居酒屋トークです。これは、1対1で仕事に対する成功体験や不満とかを話し合うこと。まずは、お互いを知り合うことをする。これはある会社のやりとりを分析したもの。本業の業績はいいが、最近新商品ができていないのはどうしてだろうかと考えた。もともといい商品を作っていたから、業績がよかった。最近市場が成熟してきてものが売れなくなってきた。業績がでないといけないから、対処療法的に商品をちょっと変えて出していた。短期間では業績はあがる。しかし、新製品はでない。もともと社長は成長しないビジネスに価値はないと思っているし、社員も今までにない新商品を作ろうと思っているが、こういう構造があるからうまくいかない。しかし、こういう構造があるのがわかったから、対処療法をやめようといってもうまくいかない。対話では、こういった構造や行動についてみていかなければいけない。どういったことが必要かというと、事例をもとに話をします。野村証券の新部署がうまくいった。人数も増えて、やる気になっていたが、6月に入ってみんなの元気がなくなってきた。原因をさぐるために一泊二日の合宿をしたら出てきた。経営人が4人いる。そのなかにイデギュラーを世の中に広めようとする業績第一主義者の人と社会をよりよくしようとする変革至上主義者の人がいる。ちなにみ、私は業績第一主義者でした。前提とか構造の恐ろしいところは、私はイデギュラーを世の中に広めて、社会をよりよくしたいと思っていたのに、業績第一主義者になっていたことです。その前提とは、自分は幼いころから自分には価値がないと思っていた。だから勉強して価値を高めようしていた。そして、社会では業績を上げることでそれを証明しようとしていた。しかし、気づいたら業績第一主義者になっていた。私は、「なんだ、たいしたことないな」とか「お前には価値はない」と言われるのを恐れていた。それもあるが、何のためにやっているかというと、社会をよりよくしたいとかに立ち返ることである。なににこだわって、なにがやれるかイエス・ノー表を作った。私たちは、社会変革、お客様への啓蒙、世論を形成しますというものにこだわっていくとしている。それと同時に、業績目標や、人を増やして、組織を大きくすることは手放していくことに決めた。私の責任のもと7月に業績目標を撤廃することにした、そうしたことで8、9月と業績がさらに伸びて、今年度の予算を達成してしまった。こういった自分の前提とか恐れを共有して、それをベースにどうしていくか考えた成果である。
最後に、越境する教師の会ってすばらしい名前だなと思う。私の課題として越境するってすごく大変だな。おそらく対話によってできる越境が2つある。1つ目は、自らの役割とか立場を超える。いろいろな人の立場を知るということ。学校を変えようとしている時、このままでもいいのでないかと考えている人のことも、なんでその人がそう思うのかまで考えられるぐらいに対話をする。2つ目は、自分の限界をこえる。私たちはこれを内省と挑戦と呼んでいる。対話による内政と挑戦によって自らの壁をこえていきましょう。ということが私の伝えたいことであります。
「学校の外から学校はどう見えるのか」
パネルディスカッション
船橋 力氏(ウィル・シード)
ウィルシードでは、「学びと成長」をテーマにしている。その中で、大きく二つのことをやっている。ひとつは企業の人材開発。企業の社員教育として、いろいろな会社に研修という形で教育を行っている。もうひとつは、学校の総合学習に体験型ゲームのプログラム提供をしている。企業の研修を教員や校長先生の研修にやってもらうことや、学校支援地域本部、杉並の中学校で、地域の大人が学校にどう関わるかのカリキュラムを作るお手伝いを文科省からの委託でやっている。
子どもにとって、仕事、経済やビジネスが遠い世界で、つまらないというイメージを良くするための授業をして欲しいという依頼を受け、のべ630校に5万人の児童生徒にプログラムを実施、また、教員の方にやり方をトレーニングするという仕組みでやってきた。たった一日の関わりだが、北海道から沖縄までやってきた。
提供したいのは、学ぶって楽しい、成長することは嬉しいということで、自分のことを知るきっかけになればと思っている。
私たちのコンテンツのひとつである「いきいきゲーム」を具体的にご説明します。いきいきゲームとは、会場を1つの世界とみたて、いくつかの国(チーム)に分かれて行う国対抗ゲーム。進行は、世界を取りまとめる『国連役』が行います。それぞれの国情に合わせて、支給される紙(資源)・道具(技術力)・所持金(資金)が異なる。それらを用いて指定された製品を生産し、『製品取引所・銀行』に持ち込むと換金でき、その他、様々なアイデア・工夫を凝らして、時間内に一番豊かになることができた国が勝ちとなる。ゲーム中は、現実にも起こりうる出来事や変化がおこるため、どの様に対処していけるかも重要な鍵になる。
このゲームから伝えたいのは、主体的に動かないと何も動かないということ。また人との関係性、社会を知るということ。実際には失敗は何度でもできる、いろいろなやり方がある、答えは一つではない、自分の得意なことを活かそうということをこのプログラムでの体験を通じて子ども達に気がついて欲しいと思う。
高橋 大介氏(NPO法人じぶん未来クラブ)
自分未来クラブには4つの事業がある。そのひとつに、ヤングアメリカンという日本で言うNPOのような組織のアウトリーチ事業がある。子どもの心の豊かさ、表現力が求められた時代に、ヤングアメリカンのアウトリーチツアーが開催される。日本では2006年に開催され、初年度小学校から高校生までで654名、現在は4,545名に受けてもらった。
ふたつ目に、お仕事探検隊というプログラムがある。関わる人としては、企業、企業に来る大学生インターン、小学生。大学生のインターンのプログラムとして、企業に入り、社員の人たちに話を聞いて、その会社の成り立ちを勉強したりして、最後にインターンの納品物として、子どもたちにお仕事探検隊の一日のプログラムを作ってくださいとお願いする。これを通して、働く事は大変だけど、仕事って面白いなと学んでもらえるようなプログラムになっている。
他にも東京都の教育長に委託されて、教育支援コーデイネーターとして、2カ所の総合高校の方で産業社会とプログラムの開発の支援をしている。
学校と企業が、企業サイドは学校と関わりたいが、どう関わっていいか分からない、学校サイドも関わって欲しいと聞くが、どういう形でお願いしていいか分からない、それを支援していく。
具体的には、ヤングアメリカンズ・アウトリーチツアーとは、音楽やダンスのショーと音楽教育(アウトリーチ)を活動の二本柱で行う特定非営利団体「ヤングアメリカンズ」を招聘して、日本の子どもたち(小~高校生)向けに「英語で体験するミュージカルワークショップ」を行っていること。2日間(または3日間)で、プログラムの最後には1時間のミニショーを行う。
英語が学べて歌がうまくなって、ダンスができるようになるみたいな内容のように見えるが、彼らは、その場にいてその道具(ダンス、歌)を使って、自分を一歩踏み出すことが楽しいと思っている。
その瞬間が分かる時があって、あるワークショップのときに、おとなしい黒人の女の子がいた。30人の前で一人ずつ歌ってみようという時間があり、けれど、女の子は立てなかったり、歌えなかったりする。すると、そこの雰囲気が変わっていく。まわりの仲間が空気を作っていくようになる。そして、女の子も時間をかけながらも、すばらしい歌声で歌いだした。最終的に女の子はショーでメインボーカルをつとめた。
女の子がそこで殻を破ったことが重要ではなく、その子がショーの最後に立てることに至った、プロセスが大事。女の子がそこに立てた背景をみんなが知っていて、そこにつながりができて、それを支援していることが誇らしいと仲間が感じる。何かを学びなさいではなく、みんなが集まって一つのことを目指している中に、色んな気づきや発見、学びがあって、それは苦しいことでもあり悲しいことでもあるが、それも全て喜びになるという事に気づく。