2010年8月6日 読売新聞東京本社 朝刊
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◆授業サポート、読み聞かせ…

「『おめら、何してるっちゃ』って大声出したら、一目散に逃げていったよ」

海外旅行先で集団スリに遭いかけ、福井弁で撃退した。五十嵐光子さん(67)がそんな体験を笑顔で話すと、3年生の児童たちがドッと沸いた。

7月初旬、福井市立日之出小学校。五十嵐さんは、こうして児童の関心を集めた後、三角形やハート形など好きな図形を描かせ、それを英語で表現する「英語活動」の授業に入った。学校近くに住む五十嵐さんは元高校英語教師。「40年の経験を役立てたい」と、今春からボランティアで教壇に立っている。

日之出小1年の前側遥香(まえがわはるか)さん(6)は、祖父母と両親、妹、弟の7人家族。トマトの水やり、あやとり、宿題の音読、どれも祖父の宏さん(62)と一緒だ。両親は「勉強しなさい」と厳しいが、宏さんは「外で楽しく遊ぼう」とおおらか。「たまに怒ったおじいちゃんは本当に怖いけど」と、遥香さんはおどける。

授業のサポート、絵本の読み聞かせ会・・・・・・。日之出小には、地域の住民が、子や孫に会いに来るように訪れ、知恵や経験を生かして学校を支える。福井市内の小中学校では珍しくない光景だ。

福井県は、先月末に結果が発表された全国学力テスト(学テ)で、小中とも4年連続、トップクラス。同県では、3世代同居率が、やはり学テ上位の秋田、富山などと共に高い。

「祖父母や親だけでなく、地域の大人の多くが学校を見守っている。児童は自分が大切にされていると感じ、意欲的になる」。日之出小の金牧陽子校長(59)は言う。

「学校ボランティアを募集しても反応が悪い」

周囲にマンションが並ぶ東京都内の区立小学校長(59)はため息をつく。学校の保護者は共働き夫婦や母子家庭、父子家庭が多く、学校行事や自治会への参加は低調だ。核家族化が進み、近所づきあいも希薄な都市部。地域の協力を得るのはなかなか難しい。

文部科学省は2004年、公立学校の運営にコミュニティスクール制度を導入した。住民や保護者らでつくる「学校運営協議会」が、教育の方針などについて学校側に提案する。協議会が推薦した地元出身の教員が採用されるなど、地域の声が反映される例が出ている。一方、住民側が受験対策などにこだわり、学校側が困惑するケースもあるという。

「3年生の家庭学習は1日2時間以上にしよう」

盛岡市立飯岡中学校の「まなびフェスト」の一例だ。学校、家庭、地域が協力し、生活習慣の改善を通じて学力を高めようと、具体的な目標を立てた。今年度中に、岩手県の全公立小中が独自に目標を掲げる。

飯岡中の佐々木孝志校長(57)が2年前に赴任した頃、学校内で住民を見かける機会は少なかった。佐々木校長は、地域の目をもっと学校に向けてもらおうと、生徒たちが合唱をする姿を校外で見てもらう“仕掛け”を考えた。

熱心に練習した生徒たちは、地域の集会や祭りで繰り返し合唱を披露した。保護者や住民は大きな拍手を送り、授業や学校の行事を見学する姿も増えたという。

「一生懸命な生徒の姿を見てもらうことが、地域の人々と協力していく一歩になった」と、佐々木校長は手応えを感じている。

授業中の集中力も目に見えて増した生徒たち。「今までと違う自分になれた」「緊張を乗り越え自信がついた」。合唱の舞台を終えた充実感の中、口にする言葉だ。