2010年7月6日 読売新聞東京本社 朝刊
新聞記事の画像

読売新聞「大学の実力」調査で明らかになった大量の就職留年。背景には、いまだ根強い新卒一括採用とともに、大学全入時代を迎え、学生の質をより重視するようになった企業側の姿勢がある。

■厳しい実態

「リーマン・ショックの影響をまともに受けたようだ。このままではどんどん留年者が積み上がる」と、立命館大(京都)の浅野昭人キャリアセンター次長は焦りを募らせる。今春、卒業予定者の21%に当たる約2,100人が留年。昨年度に比べて約500人も増えた。

「去年は4月に内定の山がないので、いやな予感がしていた。今年も山がない。夏から秋口の採用に光があればいいのだが」と危機感を表すのは、成蹊大(東京)のキャリア支援センター。今春、学費が半額ですむ卒業延期制度を利用したのは62人と、前年の3割増だったという。

■新卒志向

本紙の大学の実力調査で判明した、推定7万9,000人の就職留年。背景には、不況による採用減がある。

日本経済団体連合会の調査によると、今春採用を実施した企業は91%で、昨年度より5ポイント減。1997年度の調査開始以来、初の2年連続の減少となった。この結果、根強い「新卒一括採用」を理由に留年して翌年に新卒者として再挑戦する学生が増えていると見られている。

国は2007年の指針で、既卒者への門戸開放を企業の努力義務として定めたが、経団連調査では、59%が「(既卒者の採用を)受け付ける予定がない」としている。ある大手企業の採用責任者は「新卒の方が定着率が高く、育てがいがある」と話す。

◆「学生の質低下」 企業、採用尻込み

■ゆとり影響?

一方で、学生の質の低下を指摘する声も多い。

「どこへ行っても、下がっている、下がっていると、質の話ばかり」と、楽天みんなの就職事業の矢下茂雄・事業長。「ゆとり教育や大学全入時代が影響しているのでは」と分析する。就職情報会社ダイヤモンド・ビッグ&リードの筒井智之(さとし)社長は「質の低下はここ2年、特に感じていたが、不況で顕在化したのでは。大卒は基礎学力があるから企業は採用していたのに、その前提が揺らいでいる」と話す。

就職情報サイト「マイナビ」の望月一志編集長は、「質が足りずに予定数を採用しない企業は、中堅以下で多い」とした上で、「(学力を重視しない)入学形態が関係しているんじゃないかなと企業は感じ始めている」とも明かす。

企業コンサルタントの前川孝雄さんは「今の学生は個性教育の名のもとで育てられ、人と比べられることや競争するのが苦手。企業は物足りなさを感じているようだ」と分析する。

■社会の意識

東京、大阪など全国8都市で展開する就職予備校「内定塾」では、昨年はほとんどなかった就職留年者の問い合わせが、今年は4月からの3か月間で約100 件。講師の柳田将司さんは、「就職留年が社会的に認知され、大学受験と同じ感覚で就職予備校に通うようになった」と話す。

就職予備校「企業受験ゼミナール」(東京)の戸部克弘代表は「全入時代で大学入学の壁がなくなり、今は、就職の段階で壁ができている」と見る。不況のため、できれば大企業で一生勤めたいという安全志向が学生に強まり、保護者が後押ししていることも拍車をかけている。

◆大学、支援懸命 キャンパスに専門学校 留年学生の学費軽減

2000年前後の超氷河期以降、大学は就職支援に力を入れている。就職実績が、大学全入時代の生き残りの決め手になるからだ。入社試験の筆記試験対策や模擬面談などの実施はもう当たり前。支援メニューは年々多彩になっている。

聖学院大(埼玉)では、教職員が全員で求人情報の収集などに当たる。先月下旬には、職員2人が学生11人と一緒に合同企業説明会に参加した。内定が取れず、落ち込んでいる学生を力づけようと始めた付き添いだ。

山口大(山口)は昨秋、国立大で初めてキャンパス内に専門学校を誘致した。公務員や簿記、公認会計士の資格試験対策の講座が並び、236人が通う。

北九州市立大(福岡)は今年3月、急きょ卒業延期制度を始めた。通常の4分の1の学費負担で1年に限り留年できる。「想定もしていなかった事態。新卒で就職できるよう大学としてもサポートしなければ」と同大就職支援室。

青山学院大(東京)も昨年度から就職留年者の授業料減額を制度化し、約200人が利用している。

だが、多くの大学で留年理由の申告を求めているわけではなく、実態把握は難しい。このため、安易に留年する学生が増えることも懸念し、支援をするかしないか、頭を悩ませている大学も少なくない。