2009年12月2日 読売新聞東京本社 朝刊
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対人関係を上手に築けるよう、心理学を必修で学ぶ高校がある。

「怒り、落ち込み、不安はどこからくるんだろう?」。教壇から問いかける女性教諭に、生徒の視線が注がれた。

開かれた教科書には、「思考楽々シート」の文字。「問題の出来事」「そのときの心のつぶやき」「感情」「楽になるための考え」が、順を追って記入できる。

「ケータイの待ち受けを見たら自分のじゃなかった。だれが私のを持ってるの? ゲキ不安! さっさと見つけようと行動に移す!!」。女子生徒が笑顔で自分の「答え」を発表した。

「怒り、落ち込み、不安になったら、心のつぶやきに耳を傾け、柔らかく考えてみて」。教諭はそう言って、45分間の授業を締めくくった。

茨城県鹿嶋市の県立鹿島灘高校は午前、午後、夜間の3部制を取る定時制だ。不登校など多様な生徒を受け入れ、「フレックススクール」と呼ばれる。小中学校時代の友人関係のトラブルから心に問題を抱える子もいる。

発達障害のある子の3割が不登校になり、不登校の3割に発達障害があると言われる。同校には、発達障害の診断を持つ子はいないが、疑いのある子を含めて、集団生活で苦戦しやすい子を支援するため、学校設定科目として「心理学」を設定。1年次に必修としている。

元々の障害を「一次障害」というのに対して、周囲の無理解などによって失敗体験が重なり、自尊心が低下して起きる様々な症状を「二次的障害」という。「高校生の年代に表れる症状は、両方が複雑に絡み合い、どこまでが発達障害によるものとは言いづらい。だから発達障害を見つけて選別するよりも、学校生活で苦戦する生徒たちとして指導する方が有効」。授業作成者の一人、筑波大学の石隈利紀教授(59)(学校心理学)は、そう説明する。

授業は、ロールプレイング(役割演技)などのゲーム的要素も取り入れ、楽しみながら社会スキルなどを学べるように構成されている。

「相手と自分の気持ちがよく分かるようになった。社会に出てからも、きっと役立つはず」と男子生徒(16)。一方、「自分はなんてマイナス思考なんだろうと気づき、つらくなるときもある」と表情を曇らせる女子生徒(15)もいた。

「自分の内面と向き合う授業だから、心にふたをして閉ざしてきたつらい出来事をほじくり出されるように感じるときもある。心の傷を少しずついやしてほしい」。授業を担当する鴨志田和子教諭(51)が解説してくれた。

今年度の中退者数は、2007年度の約1割で推移している。自己を発見し、理解する授業が、実を結びつつある。

ほかの人と同じようにできない自分を責めるのではなく、ありのままの自分を受け入れ、自尊感情を取り戻せるように背中を押す。そこから、本当の特別支援教育が始まる。(保井隆之、写真も)