2009年7月8日 読売新聞東京本社 朝刊
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学校行事を会社の事業に見立てて働き方を教える学校がある。

広島県尾道市の市立原田中学校。生徒数21人の山あいの学校で6月14日、生徒たちが学校周辺で落ち葉を集めて作った腐葉土の販売会が開かれていた。

「いらっしゃいませ。株主の方でしょうか」

訪れる保護者や地域住民の一部が握りしめている紙片を見て、生徒の一人が声をかけた。紙片は、学校の腐葉土販売活動に出資した“株主”に対して配られた腐葉土の割引券。5キロ500円の腐葉土が100円引きになる。

準備した約400キロの腐葉土は、30分足らずで売り切れた。3年生で“社長”の粟津達生君(14)は「予想外の売れ行き。今日の反省を生かして次につなげたい」と安心した表情を浮かべた。

腐葉土作りは、約35年前、学校行事として始まった。かつては近所に無料で配ったり、学校で使ったりしてきた。

販売を始めたのは2005年。生徒たちに自信をつけてもらうのが狙いだった。達成感を味わう舞台として、「ナチュラル・リサイクル・コーポレーション」という架空の会社を設立した。

地域住民から1株100円の出資を募るようになったのは2年目から。「本当の会社にしたい」という2代目“社長”の一言だった。「職業観を育む教育」にもなると考えた教師たちは“会社設立”を承認。腐葉土作りで指導を仰いでいた地元の造園会社の協力で、会社活動の基本となる社是や定款を作った。保護者のほか一般住民も募集に応じ、84人が株主となった。

腐葉土と花の種のセット販売といった商品企画をする「企画課」や、生徒を動員して腐葉土を作る「生産課」など5課の組織とし、3年生に社長と課長、2年生に課長補佐という役割を任せた。毎年2月に株主総会を開いて収支決算の報告や新役員の選出を行うなど、本物の会社とほとんど変わらない活動ぶりだ。

会社活動のもう一つの狙いはコミュニケーション能力の向上にある。生徒たちは隣接する原田幼稚園、原田小学校とエスカレーター式に進学し、幼少時から同じ人間関係しか経験していないからだ。木村好江校長は、「外の世界との接触に戸惑いを感じる生徒も少なくない」と話す。

昨年から広島市中区の市町村情報センター「ひろしま夢ぷらざ」での販売を始めたのも、外に出る一環だ。看板やチラシ作りを担当する“営業販売課長”の佐藤仁美さん(14)は、「原田ブランドを知っている地域の顔見知りの人に売る時とは違う。売り込み方法や商品を工夫しないといけない」と意気込む。

今年は入学式の後、初めて入社式をし、“社長”から辞令の交付が行われた。新入生たちに“社員”としての自覚を持ってもらうためだ。

「生徒たちは卒業する頃、自分の意見をはっきりと言い、将来の目標を持つようになる。今後も活動を続けたい」と、木村校長は期待している。(塩見尚之、写真も)