2009年5月19日 読売新聞東京本社 朝刊
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基礎学力は反復学習や放課後自習で身につける。では応用力はどう養うのか。

「理想の家の設計図を書いてみて」。3月末、大阪市内で開かれた教員対象の研修会で、「よのなか科」と呼ばれる手法の模擬授業が行われた。生徒役になった教員約50人は、6人1組で机を囲み、図を書いたり、討論したりしながら間取りを考えていく。

講師は、発案者で府教委特別顧問の藤原和博さん(53)。リクルート出身の民間人校長として、東京都杉並区立和田中学校で塾による放課後授業「夜スペシャル」(夜スペ)などに取り組んだ実績を買われ、橋下徹・大阪府知事に協力を要請された〈改革請負人〉の一人だ。

「よのなか科」で養う力を、藤原さんは「情報編集力」と呼ぶ。情報を選別し、自分なりの答えを導くための応用力を意味する。

例えば「理想の家」の授業では、家に何をどう配置するかを考え、話し合ってもらう。サッカー場を設けても、地下室を加えてもいい。正解はない。目的は、作業や議論を通して、発想や表現を引き出すことにある。

議論を活発にするため、保護者や大学生に加わってもらったり、専門家を呼んだりする。研修に参加した岬町立岬中学校の岡田耕治校長(54)は「生徒は面白いと感じるはず。試す価値はある」とみる。

以前から学校単位や先生個人で「よのなか科」に取り組むケースはあったが、都道府県で導入するのは府教委が初めてになる。きっかけは、反復学習などと同様、全国学力テストでの低迷だった。

応用力を問うB問題の平均正答率は、基礎を問うA問題より全国平均との開きが大きい傾向にあり、無回答率も高かった。同時に実施された調査で「国語の授業で自分の考えを話したり書いたりする」という質問に「当てはまる」とした府内の中学生は26.2%と全国平均(43.1%)を大幅に下回ったことも、教育関係者にショックを広げた。

こうした結果を受けて、府教委は「考える、話す、書く」の要素を含んだ「よのなか科」に注目した。藤原さんは2008年度に府内の小中高校55校で研修を実施。今後も独自の教材を開発して普及活動を進める。

本格的なスタートはこれからとはいえ、先行して授業に取り入れている教師もいる。

堺市立美原中学校の佐古田英樹教諭(33)は、「暗記に偏りがちな社会科を変えたい」と、製菓会社の社員や税理士を招き、「売れる菓子の条件は」「税金は必要か」などをテーマに授業で議論した。生徒の評判は良かったが、ゲスト探しなどに準備を要する上に、平日なので保護者になかなか集まってもらえないなどの課題もあるという。

府教委小中学校課の角野茂樹課長は「自分ならもっと有意義な授業ができると思う教師もいるはず。ぜひ挑戦してほしい」と呼びかける。授業内容の自由度が高い分、教師側も試されることになりそうだ。(森重孝)