2010年7月29日 読売新聞東京本社 朝刊
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不思議な光景だった。

7月上旬、千葉県柏市の市立柏第一小学校で、6年生の「英語活動」が行われていた。授業を担当するのは担任の今関恵理教諭(26)と、オーストラリア人講師のディナ・タングさん。だがなぜか2人は言葉を交わさない。

「ハロー、(こんにちは)エブリワン(みなさん)」。教壇にディナさんが立つと、今関教諭は教室の後ろへ回り、児童たちが楽しそうにディナさんと英語を話すのを見守った。

柏市では、教師とともに授業にあたる外国人講師を直接雇用せず、業者を介した委託方式にしている。経費を抑えられるからだが、委託の場合、教師は講師に直接指示できない。今年4月には、黒板にカードを張ってもらったことなどが「指揮命令」にあたり偽装請負だと、千葉労働局から是正指導を受けてしまった。

苦肉の策が、教師と講師が授業中に話さないことだった。「なんとか生の英語に触れさせたい」と市教委の担当者。来年度以降、改善を検討するという。委託方式をとる自治体は多く、労働局に問題を指摘されたケースはほかにもある。

来春から小学5、6年で必修となる英語活動は、数字で成績をつける教科ではない。文部科学省はその目指す「学力」を、「体験や慣れ親しみを通じ、コミュニケーション能力の素地を養うこと」とし、母国語が英語の外国語指導助手(ALT)の利用を勧める。

英語が得意な教師が小学校に少ないことも、「ネイティブ願望」に拍車をかける。各地の教育委員会は今、ALT確保に懸命だ。ALTを供給するある業者は、「求められても足りずに断ることがある」という。

一方、ALTに教育経験や資格が必要という決まりはなく、質の確保は業者まかせの部分がある。日本語が不得手な人も多い。東京都足立区教委は、昨年度から区立小でのALT利用をやめ、英語が堪能な日本人を採用している。「ネイティブであっても意思疎通できないと授業がしにくい。日本語のできるALTは十分確保できない」という理由だ。

7月上旬、柏第一小近くの英会話学校に、母親に連れられた幼稚園児や小学生がやってきた。長女日菜乃さん(5)を通わせる主婦、川上美穂さん(35)は「私は文法はわかるけれど、話すのは苦手。英語が話せれば将来の選択肢も広がる」と期待する。3〜5歳向けの英語ビジネスは堅調で、保護者の早期英語教育への期待は根強い。

本格的な小学校英語の試みでは成果も出ている。東京都荒川区教委は、6年前から全学年に「英語科」を導入した。同区立峡田(はけた)小の松崎勝校長(60)は「外国人に自分から話しかけるなど、明らかに英語への抵抗感がなくなった」と話す。ただ、中学に進めば文法も学ぶ。同区教育研究会で中学の英語教育を担当する山崎聡主幹教諭(51)は、「英語科卒」の子どもが「話すより書くことに高いハードルを感じる場合もある」と話す。

東京・練馬区に住む盛田理美さん(22)は、生まれてすぐから母親が買った教材で英語を浴びるようにして育った。周囲にネイティブはいなかったが、中学1年の時には既に滑らかな英語を操っていた。

でも、楽しみにしていた中高での授業は「受験のための英語」に思え、意欲がわかなかった。今は、英語が“共通語”の米国の大学の日本校に通う。「英語を使っている実感があります」

「小学校英語は、日本語が話せる外国人と一緒に、楽しく、意欲を刺激される内容がいいですね」。盛田さんは自分の経験を振り返りながらそう話した。