2010年8月5日 読売新聞東京本社 朝刊
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◆子どもへの影響 検証へ

「どこが分からなかったのかな?」

東京都日野市立平山小学校で6月にあった2年生算数の授業中のことだ。パソコンのモニターに映る計算問題を解いていた中村駿一君(8)に、折茂(おりも)慎一郎(しんいちろう)教諭(34)が駆け寄って聞いた。

平山小では、算数などパソコンを使う授業で、計算問題を間違えると次は自動的に易しい問題が出るといった機能を持つ学習ソフトを利用している。教師用のモニターには、各児童の小テストの進み具合や正答分布などが表示される。

折茂教諭が中村君の机に来たのは、教師用モニターの中村君を示した個所が、1問を解くのに5分以上かかっていることを示すオレンジ色に変わったからだ。

「困っていると先生が来てくれる。テレパシーみたい」と中村君は笑った。

日野市は、このソフトを全17小学校に導入。パソコン授業で受けた内容など児童一人ひとりの「個人履歴」を各校のコンピューター(サーバー)に蓄積し市で共有している。進級や中学進学後も参照できるという。

日野の学校の姿は、政府が目指す「未来の教室」と似ている。デジタル化した教科書、教材を小型パソコンや「iPad」のような電子端末に納め、小中学生全員に配布する。こうした、学校への情報通信技術の導入構想を原口総務相が発表したのは昨年末だ。2020年度の実現をうたう。

文部科学省はこれまでも、学校への情報通信技術の導入を進めて来た。ただその中身は、校内のインターネット接続環境の整備や、教科書の内容を大型モニターに映せる「電子黒板」の導入が主で、教師が指導用に使う前提だった。

一方、民主党政権で急浮上した今回のプランは、「端末1人1台」や、成績など子どもの記録のデータベース化に大きな狙いがある。鈴木寛・文部科学副大臣は「一人ひとりの履歴を把握し、学習に役に立つ形でいつでも提供できる」と、そのメリットを強調する。

文科省が進めて来た内容を含め、情報通信技術の導入で学力が上がったというデータはまだ少ない。電子黒板を週1回以上使う学校は、ほとんど使わない学校より全国学力テスト(08年、小学国語・算数)の平均正答率が0.5〜1.5点高かった、との文科省の委託調査結果が目立つくらいだ。

一方で、個々の子ども用の電子端末を学校に持ち込むことで、重要な学力でもあるコミュニケーション能力が低下しないのか、学校教育の基本「手書き」はどうなるのか、などの懸念が出ている。中学生は今でも電子ゲームなどに相当な時間を使っており、目や脳への影響も心配される。

文科省は7月、「教育の情報化」は必要だとしつつ、「開始年齢、教育効果、健康への影響などを検証すべきだ」とする骨子案をまとめた。日野市では、パソコンを使う授業の時、普段は禁じている隣の児童同士の話し合いを勧め、道徳の時間などでネットゲームなどにのめり込む怖さも教えるなど対策をしている。

文科省の「子どもの徳育に関する懇談会」の委員を務めた作家の柳田邦男さん(74)は「少なくとも小中で1人1台は必要ない」と指摘する。「特に幼少期は人間形成の土台になる大切な時期。相手の目を見て話し、肉声を交わし、友達や先生と生身で触れ合ってこそ、思いやりやコミュニケーション能力が育つ」