2009年5月19日 読売新聞東京本社 朝刊
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社会に出るため、学力以外にも教えるべきことがある。

4月下旬。初芝立命館高校(堺市東区)の図書室で、1年生約30人がプリントに向かった。質問は「10年後の自分の仕事」。しばらくして北宏志教諭(25)が「書けた人は」と問いかけたが、手を挙げたのは2人だけだった。

「意外と書けないよね」と助け舟を出したのは、情報・人材サービス会社「リクルート」の笠正太郎さん(30)。高校生の進路サポートを手がける立場から「書けないことに気づくのが大事。それが次へのステップ」と励ました。

授業は、大阪府が今年度から始めた「キャリア(職業)教育」の第1段階になる。この後、生徒らは、106の職種と94の学問分野への適性を測るリクルートの自己診断テストを受け、働いている人の話を直接聞くワークショップや就業体験に参加。1年間かけて社会への〈入り口〉となる仕事の実像を学ぶ。

府がこうした事業を始めるヒントにしたのは、作家・村上龍さんの著書「13歳のハローワーク」。興味や関心の先に、どのような仕事があるのかを知ってもらい、進路選択に生かしてもらう考えだ。

初年度は府立・私立計10高校が参加。このうち初芝立命館高校の薮内(やぶうち)美佐・進路部長は「偏差値で大学を選び、進学後に後悔する生徒を減らしたい」と力説。府立西成高校も「安易に就職先を選ばないよう、様々な仕事に触れさせたい」と成果を期待する。

就職を支援するための検討も始まる。

「いらっしゃいませ」。服飾メーカー「ワールド」(本社・神戸市中央区)が大阪・キタの阪神百貨店内に展開する店舗で、太田有美さん(20)が笑顔で買い物客を出迎えた。上田安子服飾専門学校(大阪市北区)の3年生。ワールドの社員になることを目指し、先輩社員の背中を見ながら実習に励む。

在籍する同校ストアマネージメント学科は、ワールド系列の店舗で3年間実習を積めば、同社の正社員として採用される制度を取り入れている。太田さんは、理学療法士の資格を取得できる大学を目指していたが、この制度を知り服飾の道に進んだ。「興味があっても、先が見えなければ、思い切れなかったかもしれない」と話す。

府は、こうした就職に直結する取り組みに着目。他の専門学校や企業に呼びかけ、若者の支援モデルとして他業者に広げていく考えだ。

橋下徹府知事がキャリア教育に力を入れるのは、「学力偏重」という批判への“反論”でもある。

背景には、府内の高校生の厳しい現状がある。中退率は5年連続で全国1位。高校卒業後、進路未定者の割合(6.8%)も、全国平均を上回る。

「英数国理社がすべてではない」。そんな橋下知事の持論を具現化するため、〈就職力〉向上の取り組みが進む。(森重孝)