2010年2月23日 読売新聞東京本社 朝刊
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教育委員会が保護者対応力の向上に乗り出した。

電話が鳴ったら、近くの人がすぐ出る。3鈴以内で出られなかったら「お待たせしました」の一言を添える。

東京都教委がまとめた「学校問題解決のための手引」に載っている内容の一部だ。7万部を刷り、3月までに公立の幼稚園と小中高・養護学校の全教職員に配る。

要望や苦情の聴き方、事務室と職員室の連携など、保護者との初期対応に重点を置いた。「相手の声に耳を傾け、その背景にある事情を把握する姿勢が前提」(都教委)だが、学校だけでの解決が難しい「解決困難ケース」の対処法も説明した。

きっかけは、2008年6月、都内の全2,418の公立学校・幼稚園を対象に実施した調査だった。保護者から理不尽な要求を繰り返し受けるなどの解決困難ケースについて、07年度の発生件数を尋ねたところ、「ある」と回答したのは約1割。その半分以上が、学校の初期対応が原因でこじれていた。

いじめを受けた児童の保護者から相談を受けた際、担任が「お宅のお子さんにも問題がある」と話したところ、ファクスやメールで執拗(しつよう)な抗議を受け続けた学校もある。

全体から見れば、深刻化する事例はわずかだが、都教委は「保護者からの不満や苦情には、貴重な提案や相談も含まれる。保護者と協力して子どもを育むには、すべての学校現場で、初期対応力の向上が欠かせない」との姿勢だ。

東京都より2年早い08年度、大阪市教委も教職員向けの手引書をつくった。以前は保護者対応で迷った学校から、すぐに市教委に連絡が入ることが多かったが、手引書に対応の流れを図式化し、関係先の電話番号も載せたところ、市教委への電話は減った。

指導部の岡田和子・総括指導主事は「教師が一冊持つことで、現場が主体的になり、簡単な事例であれば学校で解決するようになった」と効果を感じている。

「少々お待ち下さいませ」。壁に背中を向けて並んだスーツ姿の若者たちが、腰から上半身を15度傾け、軽いおじぎをした。「恐れ入りますが」「あいにくでございますが」。相手の心を和ませる「クッション言葉」も飛び交う。

小中学校で担任を務める教職5年以内の若手24人を対象に、埼玉県と北本市の両教委が企画した研修会。県内の百貨店で社員教育を担当する「接遇のプロ」が、講師役を務めた。

市教委では「学校は世間の常識と溝があると言われ、それが原因で保護者との信頼関係を損ねることもある。学校で最初に保護者と接する担任も、初期対応を学ばなければいけない」と説明する

受講した男性教諭(29)は「保護者からの苦情で、混乱してしまい、うまく対応できなかったことがある。信頼なくして出来ない仕事。まずは安心を与える言動を日頃から心がけたい」と語った。

教師一人一人の意識が、少しずつ変わっている。(大谷秀樹、写真も)