2010年2月20日 読売新聞東京本社 朝刊
新聞記事の画像

保護者対応の悩みを抱えこまないよう、学校全体で工夫を凝らす。

東海地方の公立高校の男性教諭(37)は、保護者とのトラブルを抱えたことが何度かある。特にひどかったのが、数年前、希望大学への推薦入学に成績が足りない3年生の母親から、調査書の書き換えを求められたケースだ。

即座に断ったが、しばらくすると、昼夜、土日を問わず携帯に電話が入るようになった。「調査書を改ざんすることぐらい簡単でしょ」と強い口調で迫られたこともあった。電話は数日間で収まったが、この間、誰にも相談できなかったという。

「1年間、問題なく終えるのが当たり前とされる世界。保護者トラブルが起きれば教員のミスとされ、話すのは恥という気持ちがある。当然、対応がこじれても、周りに相談しづらい」と、男性教諭は明かす。

東京都教職員互助会運営の三楽病院(千代田区)では、保護者とのトラブルを抱えて受診する教師が増えている。精神神経科の真金薫子(まがねかおるこ)部長によると、いい教育を目指すあまりに親の要求に応えようと頑張り過ぎ、ギリギリまで心の病に気づかないケースが多い。特に異動1年目や新任の教師が陥りやすいという。

「同僚との会話が少なくなったり、書類の締め切りが間に合わなくなったりと、ささいな変化を見逃さないこと」と真金部長。「何でも遠慮せずに話せる雰囲気を、普段から職場に作っておくことが大切」と助言する。

「早退は、子供ひとりで帰さない」「跳び箱は、マットを敷き指導する」「学校の保護者以外にも挨拶(あいさつ)を」・・・・・・。

東京都東村山市立大岱(おんた)小学校の職員室の壁には、30の個条書きで埋まった模造紙が張られている。

保護者から来るどんな苦情でも書き出し、学校全体で受け止める仕組みだ。

これを提案した西留安雄校長(60)は「保護者から指摘されて当然のことを、一学級の問題としてとらえてはいけない。視覚化して全員が共有することで、苦情が宝になることもある」と前向きだ。

数年前まで親のクレームが少なくなかった。しかし、発想を転換した。「うちの子は漢字を覚えない。しっかりと指導してほしい」と要望が来れば、独自の漢字検定を作り、学校全体で競わせた。児童のノートの書き方指導に注文があれば、きれいなノートを表彰する大会を企画した。

若手の指導・育成にも力を入れる。職員会議の時間をなるべく削って、その分、指導役のベテラン教師が若手教師に寄り添い、気づいたことを話し合える環境をつくった。

西留校長は「忙しいことを理由に変えようとしない学校もあると思うが、子どもの願いに応えるという教師の初心に戻れば、学校はいくらでも変えられる」と強調する。(大谷秀樹、写真も)